コーヒーのしずくと紙のしみ

好きなこと書いていけたらいいなって思います。

幻滅と別れ話だけで終わらないライフストーリーの紡ぎ方

 

幻滅と別れ話だけで終わらない ライフストーリーの紡ぎ方

幻滅と別れ話だけで終わらない ライフストーリーの紡ぎ方

 

 「わかる」ってのは「分かる」とも書けるので、要するにわかることってのはあれとそれを分けられるようになって「これってこういうものなんだ」と腑に落ちてあるカテゴリーに分類することができる。

もう少し踏み込むと、生々しいものときれいなもの、善と悪のように、人間をふたつに分類しようとすると、嫌いなんだけれども身の回りに置いて置かざるをえないどうしようもないものがあり、それを気持ちが悪いと感じてしまうんじゃないでしょうか。これが分からないものであり、価値観が問われるものです。人は気付いてないんだけれども、無意識に不安になってしまったり恐怖を感じたりしているのはどっちつかずな中途半端な状態、いわば分からないものについてなのかも。

 

 ただ同じ海を並んでじっと眺めるように、安らいだ気持ちで生きていくにはどうすればいいのか好い加減で生きていくにはどうすればいいのかをよしもとばななさんときたやまおさむさん二人で探っていく「幻滅と別れ話だけで終わらないライフストーリーの紡ぎ方」。

 

ー小説家・よしもとばなな精神分析医・きたやまおさむが、『古事記』、浮世絵、西洋絵画、映画、マンガにいたるまでの文化の深層を語り合い、日本人のこれからのあり方を「並んで海を眺める心で」いっしょに考える、新しいスタイルの講義・対談。(本作内容)

 

 少し前に、知り合いの女の子がいて、彼女は「よしもとばななさんは神様みたいな人!」と言うぐらいに敬愛しておりました。何作か読んだ経験があるのですが、私の印象としては主人公が聞いたことのある話を一人称で語る本であり、著者自身へのふわっとした感触としては裏表がきっと無いんだなと思いました。そういう人柄みたいなものが人を惹きつけて止まないのかなとも思いました。以前はよしもとばななさんの父である吉本隆明さんと北山修さんの対談本を読んでいたので、これも読んでみようと思いました。

 

 北山修さん自身フォーククルセイダーズのメンバーであったり精神科医であったりとなかなかにユニークな人です。さらに考え方も興味を抱かざるを得ないものであり、この本を読んでいる際中にも都度立ち止まって咀嚼してしまい、読むのに時間がかかります。

 精神科医であるからには、人間の心と言うものにどう向き合うのか考えざるを得なく、北山修さんは「精神分析とはこころの台本を読むこと」と言っております。この文句はストンと腑に落ちるものがあり気に入ってしまいました。

 

 私は「こころとか言うものがあるのなら、見してみろや!!」と大学時代の教授の考え方に、当時は深く共感してしまい、つい最近まではそういったスタンスを取りながら「こころ」の在り方を考えていました。北山修さんの話を読みだしてから「この人はこころが在るとは断言しないな」と感じ、精神科医としてどういう風にその、いわゆるこころというやつと向き合っているのか知りたくなりました。そこでこの「こころの台本を読むこと」というのは素晴らしいなと感じてしまいました。画一的なこころが存在するのではなく世界という舞台に立ち臨んだときに、そこで演じられているこころの動きを読み取っていく、人が世界に直面したときにこころが持つ台本を理解しようとするのが精神分析である。とでも言うのでしょうか。

その台本に問題が見られる場合、患者に語りなおしていくことによって、言語的に治療しようと試み、そこで精神科医は人間の基底である無意識へと手を伸ばし、こころの台本を読みとし、その物語を紡ぎ出そうとする。

 

 今まで私がもっていた半ば受け売りのような「こころ」の在り方への反発は幼稚じみたものであり、今立ち止まって考えるのならば「こころというものが存在するかしないかわからないけれども、実感としては在るとも言える。だから論理としてその是非を確認しようと試みてもいいんじゃないかしら」ぐらいには思えます。手放しで「こころ」と言うのは、なんだか納得いかないものがありますが、あるかもしれないと考えながら水のように掴みどころがなく、雲のように不確かな「こころ」を考えていけたらなとも思います。通常の環境下では水はつかめもしないし、雲には届かないものですしね。

 

 肝心の内容ですが、幅広くトピックを扱われているので、どんな人にでも目を留めてしまう講義あるいは対談があると感じます。私は都度都度立ち止まってお二人の言葉を咀嚼するのにもの凄く時間がかかり、読み切るのに一週間近くかかってしまいました。他にもこの場に書きとどめたいことはたくさんあるのですけれど、長くなるだけなので個人的な所に記しておくぐらいにしておきます。