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コーヒーのしずくと紙のしみ

好きなこと書いていけたらいいなって思います。

ヴェニスの商人と資本論

感想

 

ヴェニスの商人の資本論

ヴェニスの商人の資本論

 

  お金のことを考えるならば、どういう風に考えていかなければならないのでしょうか。こと日本においては、お金というのは触れてはならないもののように扱われている印象を受けます。特に他人の給料なんて尋ねるのは、女性の体重を聞くこと以上の無礼であります。かと言ってお金は生きていく上では目を背けてはいけないものです。どちらかと言うと禁句であるというよりも触れざる神のような存在なのかもしれません。多くの人々が存在を信じ、その恩恵を渇望するという点では神なのではないでしょうか。

農耕民族としての貨幣を鑑みるに、そして色んな人の話を聞く限りでは、地に足をつけて身の丈にあった労働の報酬として、給料を頂いていくのが日本人としてあるべき姿の、労働の対価としての、お金の考え方が強いのかもしれません。美輪明宏さんは「お給料は我慢料」 とも表現しておりました。

 確かに存在しているけれど目にみえない貨幣の動き、いわゆる資本。お金のことを考えるならば資本主義のことを考えないといけません。そしてそれを理解することはお金のこと、社会的な貨幣の存在を理解していくことなのではないかと思って学生時代に教授から課題図書として挙げられた本を再度手にとりました。教授はこのレベルの本なら大学生は読めるだろうと言っておりました。確かに書いてあることはわかりやすいのですが、私も含め昨今の学生にはいささか荷が重いものを指定したなと今では思います。

 

ー〈資本主義〉のシステムやその根底にある〈貨幣〉の逆説とはなにか。その怪物めいた謎をめぐって、シェイクスピアの喜劇を舞台に、登場人物の演ずる役廻りを読み解く表題作「ヴェニスの商人資本論」。そのほか、「パンダの親指と経済人類学」など明晰な論理と軽妙な洒脱さで展開する気鋭の経済学者による貨幣や言葉の逆説についての諸考察。(本作内容)

 

 シェイクスピアの喜劇「ヴェニスの商人」を舞台に繰り広げられるユダヤ人の高利貸し、またそれに基づく証文の存在。証文にとってかわる貨幣の存在、または約束事を資本主義に結びつけて書いてある、なかなかにユーモラスな読み物でした。

 

 資本主義に基づく考え方はユダヤ人の商売人の考えから展開したと見受けられます。資本主義の基本とは物流に伴う交換であり、その交換を円滑に進ませるために貨幣という概念が生まれた。パンの作り手と魚を扱う漁師がいたとします。彼らは互いにパンと魚を交換する。しかし片方が十分な物量を抱えている時には他方は、相手のものを必要としない。その問題を解決するために、モノに取って代わる代替品として貨幣が生まれた。その貨幣は独りでに価値をもち、流通し、あらゆる場面においてモノに取って代わる代替品として活用される。次第に貨幣自体が価値をもつようになり、それに対しての対価がモノに与えられるようになった。貨幣に対してはふわっとこんな風に理解しています。

この「ヴェニスの商人資本論」では、貨幣、利子、ヨーロッパ社会におけるユダヤ人の役割を縦横に語っていて、本作での資本主義においては「差異」という言葉が度々見かけられます。差異とは、利潤から生まれ、利潤は差異によって埋められていく。つまり利潤は差異から生まれると言うことです。

ことヨーロッパ社会の時代においては、利潤は差異から生まれるというのは遠隔地における商取引を行った際に、そこに到達するまでの時間、空間的な差を表しています。船でそこに到達するにはどれだけ時間がかかるか、によってモノ自体に差異が生まれる。生じた差異に貨幣の価値を上乗せし、利潤を得る。と意味論的循環を行う関係です。

改めてこの本を読み、今になって大学時代の講義の内容がすっと理解できるようになりました。

 

貨幣を考える上でユダヤ人は然り、キリスト教の考え方など様々な要因が絡んできます。もし、何がしかの方法で利潤を得ようとするのなら、元来貨幣が扱われていた方法を考えないといけないのかもしれません。

 FX取引などで見られるように、円の価値とドルの価値では若干の差異があります。その差異に乗っかって利益を得ることが出来て、このように貨幣自体が差異をもっているということは、それ自体に利潤が秘められているとも言えますね。ひょっとするとお金を稼ぐ方法というのは・・・。という風に何かひらめきそうでしたが、今の私には若干届かない領域でした。今後貨幣に取り巻かれた資本主義社会で合理的に生きていこうと思うのなら、この辺りの問題は考え続けていかないとなと思います。

頑張りや努力だけで貨幣を得ることが出来るのならいいのですが、そうではなく、「仕組み」のようなものを作らなければならない。

肝心なのはこの「仕組み」であって、そこんところはなにか思いついたらいいんですけれども。

 

 若干小難しい印象を受けますけれども、読み進めていくとパズルのピースが埋まるように前書いてあったことがどんどん理解できて、一頁毎に理解が深まる手応えが感じられます。退屈だと感じるのなら脳みその体操代わりにもなり得る素晴らしい読み物でした。そして著者である岩井克人氏のどこまでも広がり、どこまで言っても経済学に結びつく思考回路はなんとも興味深いものです。ひょっとするとこの人はギャグでこれを書いているのかもしれません。