コーヒーのしずくと紙のしみ

好きなこと書いていけたらいいなって思います。

老人と海

 

老人と海 (新潮文庫)

老人と海 (新潮文庫)

 

  本を読んだ時に、「男性的」だとか「女性的」な印象を受けます。紛れもなく男性にしか書けないなと感付かせるもの、どうしようもなく、私からすると別の世界にしか見えない、女性にしか書けないもの。性別による視点の違いというのは、理解し切れないが、感覚においてのみ、汲み取れます。

 

 ヘミングウェイ著「老人と海」も男性的な作品だなと感じました。男性的であるけれども、私には未だわからない、タフで屈強で自分の弱さをも愛するハードボイルド"的"な作品です。

キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。4日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。(本作内容)

 

 どんな内容なのか。と尋ねられるとこの本作内容の通りです以外に言いようのない内容です。なのに、老漁夫サンチャゴの人生を垣間見させられる。大海原でカジキマグロと戦い続ける老人が目の前にいる。徹底的なまでの場面描写、気がつけば自分も船に乗っているかのように、波に揺られてしまいます。

アメリカ文学をいくつか読んだことへの感想ですが、本一冊がジェットコースターみたいだなと感じました。物語の終盤に差し掛かるまで、まだかまだかと退屈しそうになりながらも心のどこかでドキドキしながら、昇り続ける、話が進んでいく。クライマックスになると猛烈なスピードで話が進んでいく。右へ左へ心が放り投げられそうになりながら。そして終わりに残るものはなんとも言えない爽快感と、読む前と読んだ後では世界が若干違って見えるような読後感。この感覚を今まで一番味わったのはダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」でしたが、それと同じような感覚が「老人と海」にもありました。

 

 正直な所、途中話が単調に感じられ読むのをやめようかなと思う所もありました。けれども最後の一文まで、その一文を読んだら、言葉にできない、そうとしか言えない、心の動きが感じられました。

大海原に出て、自分を運んでいる船よりも大きなカジキマグロと四昼夜もの格闘をし、挙句には獲物を奪われる。体も心も、かじり取られ、満身創痍で帰路に着いた老人はベッドで俯せに長く眠り続けます。それは死を予感させるものではなく、老人が子どもの頃に見た景色の夢を見る。老人は諦めたのではなく、ただ疲れたから眠っているだけ。彼はきっと、翌朝にも同じように漁に出ているのではないかと示唆させる夢。何かを失ったかのように見せながらも何も変わらない。老人は時に孤独で、時にここに誰かいてくれたらなと思い、老漁夫らしく、人間らしく生き続けていくのかなと。

 

 この本を読んで、何に重きを置くかで読んだ人の、一つの人生観のようなものが図られるのかもしれないなと思いました。私が一番感銘を受けたのは「老人の見ている夢」です。だからこそ、最後の一文に高揚感を抱く事ができたのです。