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コーヒーのしずくと紙のしみ

好きなこと書いていけたらいいなって思います。

ぶらんこ乗り

感想

 

ぶらんこ乗り

ぶらんこ乗り

 

 

 子どものころって、毎日が新鮮だった。こんな手垢にまみれた表現以外にできないぐらいに。くだらない人生でも、少しずつ生きていくと、新鮮だったはずの毎日が乱暴にラッピングされてしまった、よくある毎日になってしまう。今日が毎日だったらいいのになんて思うような素晴らしい日を過ごしても、翌日にはよくある毎日に変わってしまう。

 よくある毎日を少しでも新鮮にできるように、食欲にも似た読書欲で本ばかり読んでいます。空腹を満たすために貪るように本を読んで、排泄物にも似た感想を書くしかできないけれど。小説を読むとは、他人の人生を垣間見るような、経験を共有し、自分とは違う景色を文字を通して眺められる。

 

天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。残された古いノートには痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて……。(本作内容)

 

 この小さな物語「ぶらんこ乗り」には新鮮だったはずの毎日を思い出させてくれるような景色を見ることができます。語り手である高校生の女の子が、自分が小学校高学年だった頃の数年を、割ってしまったお皿の破片を丁寧に拾って、元には戻らない欠片を大事に大事に紡ぎ合わせるように物語は進んでいきます。

 忘れた気持ちを取り戻すことは出来ないけれども、忘れたことを思い出すことはできます。忘れたことを思い出すことは、割れた欠片を紡ぐように元には戻らないけれども、それを思い出させて次は大事にしようという気持ちにはさせてくれるものです。そういった感覚をさせてくれる本。きっと誰もが、この本の女の子みたいに欠片を大事にしようと思い起こさせてくれるはずです。

 

「おねえちゃんはかなしいんじゃない。おこってる。すねている……」

 

 私があの頃に感じた気持ちもまさにこれだなと思い出せました。あの時の自分は悲しくって泣いてるんじゃなくって、怒って、むかついて、でもぶつけられない気持ちを誤魔化していたのか。

 私がこの本を読んで、この一節にはっとさせられました。そしてこの気付きは一生大事にしていきたいなあと今だけで思惟させてくれる。

読んでいる際中は、ハラハラしたり、ショックを受ける場面があります。けれども最後まで読むと自分の気持ちが何も予定のない休日の三時頃みたいに、ゆったりとした優しい気持ちになってしまいました。

貴方の臨んだ風景では、もっと大事でステキなところではっとしてくれるんじゃないでしょうか。