紋切り型を切り抜けば
陽が沈みきらないうちに見える月は、空に星もなくただひとりぼっちに見えてしまいます。だけれどひとりぼっちを感せずに気楽に太陽の光を受けて輝いている。ひとりだからってひとりじゃないと、淡く琴線に触れるかのような何かの象徴のようにも感じませんか?感じませんか。
昼食の時間に、テレビを見ていたらニュースで、戦争が続いていると信じたままおよそ30年もの間フィリピンのジャングルで生活していた、旧日本軍兵士・小野田寛郎さんが亡くなられたと言うニュースがありました。
昨年の5月頃になんらかのインタビューで小野田さんが、おそらく戦争に対する意見、で応えていた言葉に白い米をかっくらいながらも、泣きそうになってしまい。味噌汁を飲んで誤魔化すようなことになってしまいました。
「時代によって人間言うことは変わるもんですから、時代に左右されずに自分で考えてください。」
うる覚えながらも、こう仰っていました。ここで小野田さんの話をピックアップしても、しょうがないので割愛します。
自分で考えるっていったい、どういうことを言うのでしょうか。逆に「自分の頭で考えない」ということはステレオタイプの常識的な見方を当たり前のこととして受け入れてしまう。そして、たいていは、なんとなく納得し、その先を考えるのをやめてしまう。これこそが自分の頭で考えなくなるということではないでしょうか。
しばしば「自分の頭で考える」と「常識を疑う」は似た意味合いで使われていると感じます。それはつまり、常識を一度疑い、自分で考え、自分の言葉でもう一度常識を照らしあわせていくのが大事なのじゃないだろうかとも言えます。
「自分の頭で考える」ということは、いわば「主観でもって、自分の言葉を選ぶ」とも言っていいのかもしれません。(ここで「自分の言葉を持つ」というのは適切はないと感じます。)
世間一般で言う「常識」を疑うのではなく、常識を自分の言葉で、咀嚼し、判断していくことが、考えるという行為なのでしょうか。
合理主義哲学の祖ルネ・デカルトの代表的な”Cogito ergo sum”「我思う、ゆえに我あり」という命題があると言われています。(そこは定かではありません)
これは「私は思考する。だからそれ(私は思考するという行為)は私が存在している証明になりえる。」という意味なんでしょうかね。
デカルトは「一切を疑うべし」という方法的懐疑(独我論的とも言えるのか)を用いて、自身を含め、とりまく世界の全てが虚偽だとしても、そのように疑っている意識作用は私自身ということに他ならない。という思想でこういった帰結に至ったと言われています。その思考プロセス自体は、私ごときには文句を言わせ得ない美しい論理で成り立っていますが、この意訳がひとつ気に食わないですね。
言うなら「我思う、即ち我あり」のほうがしっくりきます。「私は思考する。つまりそれは私の思考が存在している証明になり得る。」という感じです。・・・長くなりそうだし面倒臭くなってきたので、この話もこのあたりでやめます。
自分の頭で考えるというのは、自分の立ち位置をはっきりとさせ物事を判断するに至る、しっかりと地についた足を自覚させる行為なのではないでしょうか。存在の証明すら肯定も否定もし得ない世界に生きている私が、今ここに立っている実感を持つためにこそ考えるとも言えます。
物事を知覚し、判断し、思考するのは他ならぬ私自身であり、それは主観的であるということから逃れ得ません。「物事を客観的に捉える」なんて言いますが、私が最も嫌いな言葉の一つです。主観から逃れ得ない方法を開示せずに客観的に物事を捉えるなんていうのは不可能であり、たとえ言葉のあやだとしても使われると人知れず体の中に何か黒いものが蠢いているような感覚になってしまいます。
客観的にはただ思考の規定だけ問われさえすればいい。主観的には内面性が問われる。だから主体的であるということから、私自身を切り離すことはできません。人が発するあらゆる言葉は「〜と私は思惟する。」という事から逃れられない。
ちなみに客観視っていうのは、なぜだかムカつきません。それは視ようとする試みの姿勢だと感じます。
花を綺麗だと感じるのを疑うのではなく考えてください。誰かを好きになったと疑うのではなく考えてください。考えて自分の言葉を選択するということは、他ならぬ私自身、貴方自身の証明にもなり得るのではないでしょうか。
さすれば自分が生きていることの証明にもなり得るのではないでしょうか。
音楽を綺羅びやかに感じる。絵画から美を抽出する。
人の言葉に涙する。自然の恒久に神を見出す。
考えても考えても、感覚以上の自身の羅針盤は無いのだろうという事しかわかりませんけれども。
知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)
- 作者: 苅谷剛彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/05/20
- メディア: 文庫
- 購入: 64人 クリック: 567回
- この商品を含むブログ (213件) を見る